▽「個人的なことは社会的なこと」というタイトルが気になって、中身は確認せずに読んでみることにした。というのも、世の中のいろんなことは他人事ではなく、自分事として考えることが必要だと思っている。「個人的なことは社会的なこと」とは微妙に感覚が違うのかもしれないけど、自分の悩みは自分だけのものではなく、誰かもきっと同じ悩みを持っている。それが社会として解決しなければいけないことなら、やはり自分の中に押し留める問題ではなく社会で共有しなくてはいけないことだ。もし自分が当事者ではない社会問題でもいつか自分もその立場になるかもしれないし、家族や親しい人かもしれない。社会的なことを自分事にして考えることは大事だ。なかなか良いタイトルだと思う。
この本は著者の貴戸理恵さんが東京新聞に連載していた際のコラムが掲載されており、非常に東京新聞らしい内容になっている。全体のテーマとしては教育をメインとしてジェンダー、人権、差別、貧困、引きこもりなどに触れていく。2013年から2021年までの連載なので、その時に起きた事件、事案をもとにしたコラムも多いので、最新という感じではないけれど、昔の話という感じではない。10年くらいの間に起きていることは何一つ解決されていないということだろう。
著者は大学の准教授で社会学を専門としている。年齢は私とほぼ同じでロストジェネレーション世代ということらしい。あまり意識していなかったし、結構不運な世代という認識は少しあったのだけど、人生を振り返るとなるほど、失われた世代と言われるのも頷ける。バブルの恩恵を受けることなく就職氷河期を経験し、社会に出てからアルバイトや派遣社員が長ければ40台を迎えた現在、経済的に苦しむ人は多いし、将来的に上向きそうもない。引きこもりが社会問題化してきたのもロストジェネレーション世代な気がするし、現在も5080問題として現在進行系で解決が迫られている。著者自身も小学校の頃に長期間引きこもり状態だったそうで、その視点から引きこもりやフリースクール、さらに教育者としての知見も入ってくるので、コラムとしてそれぞれの文章は短いけれど、気付かされることは多い。
私が1番共感したのは結婚へのスタンスだ。著者はパートナーがおり子供もいるのに結婚はしていない。日本の結婚制度に対する違和感を持っているからだそう。私としては戸籍制度や同性婚への考えから結婚制度に否定的なわけではないのだけど、不利益があることが分かっていても結婚しない選択をしていることに尊敬の念を覚える。貴戸理恵さんの知見に触れてみて欲しい。
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