高橋進「生物多様性を問いなおす」を読む

2022年2月26日土曜日

読書感想文

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▽最近よく言われるようになった生物多様性。文字のごとく生物が多様に存在しているということなのだけど、この生物多様性を維持しよう、守ろうというのが世界のトレンドになっている。では、なぜ多様な生物が暮らす状態が望ましいかというと、一言で説明するのは難しい。私の知識や言葉が足りないだけかもしれないけど、極端な言い方をすれば人間だけが地球に存在しているだけでは、いくらテクノロジーが発展しようと生きていくことはできないだろう。それができるなら火星や月、砂漠や北極でも生存は可能になってくる。では野菜と家畜だけでいいかと言うとそれも不可能だ。野菜を育てるためには微生物や昆虫が暮らす健全な土壌が必要だし、家畜は家畜で餌がいる。人間が快適に暮らせる地球環境であるためには豊かな森林や海が必要で、そのためにはやはり多様な生物、植物が暮らしていなければいけない。

狼が絶滅した理由は様々だろうけど、狼がいなくなってどうなったか。天敵がいなくなって鹿が過剰に増え、木々や植物の食害で森林は荒れ、人里にも降りてきて接触が増えた。熊を駆除し続けても何か大きな変化が起きるかもしれない。畑作業や林の中を歩いていると蚊がまとわりついて鬱陶しく、この世から消えてしまえと短絡的に思ってしまうけど、そんな小さな蚊であっても生物界においては役割がある。蚊やボウフラがいなくなってしまえば捕食する鳥や虫たちは困ってしまう。連鎖的に他の生物もいなくなってしまうかもしれないし、種を運んでもらったり、受粉を助けてくれる生物がいなくなれば植物も育たなくなる。なので生物多様性を守ることは、我々の生活を維持するためには必要なことなのだ。

高橋進さんの「生物多様性を問いなおす」は強国が世界中に進出し、略奪し、支配し、それによる現在まで続く対立、国立公園における先住民への非人道的扱いからの復権、豊かな自然を壊さない共存、人類はどのように自然と関わってきたか、何をしてしまったのか、共生は可能なのか、などこれまでの歴史とこれからのことを学ぶことができる。

第1章 現代に連なる略奪・独占と抵抗
○植民地と生物資源
○熱帯雨林を蝕む現代生活
○先進国、グローバル企業と途上国の対立

第2章 地域社会における軋轢と協調
○先住民追放と復権
○地域社会と観光
○植民地の残影から脱却するために

第3章 便益と倫理を問いなおす
○生きものとの生活と信仰
○生物絶滅と人間
生態系サービス
供給サービス(食料、医薬品、遺伝資源)、調整サービス(気候、水資源、汚染除去)、文化的サービス(精神、宗教、教育)、基盤サービス(土壌形成、栄養循環)
第4章 未来との共生は可能か
○過去から次世代への継承
○持続可能な開発援助とSDGs

終章 ボーダーを超えた三つの共生

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