鬼海弘雄「東京夢譚」を読む

2021年11月7日日曜日

読書感想文

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▽写真集を以前はよく購入していたのだけど、最近はもっぱら図書館で借りている。あまり最近の写真集界隈というか活躍している写真家のことを知らない。悲しいことに私が好きな写真家の多くは鬼籍に入ってしまっている。現役で気になる写真家なら写真展で直接作品を見ればいい。誰かいるかと思って考えてみるもすぐには出てこない。そういえばメモしておいたなとチェックしてみると、日本人だと柴田敏雄、松江泰治、海外作家だとトーマス・シュトルート、アンドレアス・グルスキー、ロバート・アダムスとあった。ほとんどが写真集よりは写真展で見ないと意味がないような気がする。

そのメモに書かれた一人で今回借りていた写真集の作者が鬼海弘雄だ。残念ながら昨年の10月に亡くなられている。本当に残念だけど、素晴らしい作品を残してくれた。有名なのは浅草で撮られた人物写真だろう。浅草を訪れる独特の雰囲気のある人物を浅草寺の壁の前で撮影したモノクロ写真はとてもインパクトがある。海外を撮影していたりもするのだけど、東京や川崎を歩き回って撮影された作品がこの「東京夢譚」。

モノクロ写真であるのは浅草と変わらないのだけど、大きく違うのは人がほとんど写っていない。多くが街並み、建築物で、インパクトは正直あまりないし、世間的な物差しでいう良い写真かどうかも分からない。スナップ写真と考えると森山大道などの名手と比べると物足りなさを感じる。温度のない無機質な写真に見えるけれどそうではない。ジャンル的には写真集なのだろうけど、結構なページを割いての撮影記、エッセイが添えられている。掲載されている写真と直接的に繋がっているかは分からないけれど、書かれているのは鬼海弘雄が写真を撮るために歩き回った際に出会った光景、出来事。写真には人の姿があまりないのだけど、そこには確実に人がいて鬼海弘雄本人がいるのだ。あとがきにも書かれているけど、古くさく懐かしさを感じるような写真や文章が多い。それはただのノスタルジーではなく、過去と現在、未来にまでも紐をゆらせばすべてがゆれあうような関係だという。

鬼海弘雄のこの写真集を見てどこかすっと入ってくるような感覚があった。私としては鬼海弘雄と意気投合できたと思いたい。写真というのはレンズの先の光景をただ記録するものではないのだ。時間や人を結び付けて表現できるかは作家次第だし、それを受け取る側も感度を上げなければならない。簡単なことではないけど、写真というのは面白いものなのです。

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