▽前に少しブログで触れたけど、作家の五木寛之さんの「死の教科書」を読んだ書評を書きたい。書評と言うかただの感想ですが。タイトルが少し衝撃的だけど、副題は心が晴れる48のヒントなので恐ろしい話でも、公序良俗に反するような内容でもない。ただ、死を扱っているだけにセンシティブな内容ともいえる。あまり死を考えたくない状況の人は読まないほうがいいかもしれないけど、心が晴れるということもあるかもしれない。冒頭で書かれているけど、何かの問いへの明確な答えを五木さんに求めるのも少し違う。大抵はアドバイスの反対の方向に答えを見出してきたそうだ。自分が決めている答えに承認を与えるための真逆の誰かの意見。確かに、自分で考えても思い当たる節がある。本当に誰かのアドバイスなんて聞いているのだろうか。
そうは言うものの、さすがの五木寛之さん。長年作家活動を第一線で走り続けた御仁。何事にもご自分の言葉を持っているし、考えさせられることが多い。自身が浄土真宗の信徒なのかは分からないけど、親鸞や蓮如を扱った作品があり、回答の中でも彼らの思想を引用している。様々な経験をして、宗教的な思想に行き着いたのだろうか。五木さんが年少時代に戦争で多くの恵まれない死に直面したことも考え方に与えた影響は大きい。今を生きる多くの人にはまったく理解できない世界だ。さらにいえば、直接的に死に相対すことが少ない現代では、死をどこか遠くに感じている。有名人の死が伝えられれば、さも知人のように感じてしまうけど直接死に触れるわけではない。メメントモリ、死を思うことはとても大事なことだ。
私が一番共感したのは、死への恐れを鎮める方法はあるのかという問いへの答えだ。宗教が現代人には救いにはなりずらいとし、それならなぜ死を恐れるのか考えることを勧めている。多くの人は地獄があるなんて思っていないだろうし、私にしてみたら残される家族も、莫大な財産もないのでその心配はないのだけど、五木さんが言うように自己を失うのは少し怖いというか悲しい。
ベストセラーになった大河の一滴で伝えたかったことは、自己が消滅したあとの循環する生命のストーリーらしい。あらゆる生命は死を迎えれば自然に還ってゆく。大河の一滴として海の一部になり、新たな生命を育み、そして新たな生命の一部になる。死というのはすべての終わりではないのだ。私は海というか林の中で死んで、動植物の糧になりたいと思っているので、五木さんのいうことは分かる。
この本は堅苦しい「教科書」などではないので、気軽に読むことをオススメしたい。