タイトルに惹かれて手にとった。私も里山の近くで暮らしている。といっても厳密には既に里山の機能は失われ、あるのはただの雑木林。公園として整備されているので散策に訪れる人は多い。里山だった頃はどんな雰囲気だったのだろう。この本を読みつつ、少し怖い所だったんじゃないかと想像が膨らむ。
今、雑木林で起きる怪異の話は聞かないし、私も何か恐ろしいことや不思議なことに遭遇したことはない。それはそれで幸運なことなのだけど、少し寂しくもある。昔の里山、自然には沢山の不思議なことがあり、伝えられてきた。それは不幸にあわないための戒めとしての作り話だったのかもしれない。近づいてはいけない場所はあるし、暗くなるまで林の中にいては危険だ。本能的に闇は恐ろしいけれど、気を引き締めていなければ怪我だけではすまない。恐ろしい話を子供の頃から年長者に聞いていれば注意深くもなる。
この本は柳田国男的な世界観とは少し違う。ちょっとした不思議な話が、今を生きる人たちが経験したことの中から語られる。日暮れ前に雑木林の中で読んで帰る時「振り返る人」という話を読んだ後だったのでとても怖くなってしまった。林の中ですれ違った人はずっと後ろを気にしながらこちらに気付かない。後で同行者にその話をすると、そんな人とはすれ違っていないと言う。というわけで、その日の帰り道はすれ違う人が来ないかビクビクしていた。
怪異だけではなく、不思議な話、昔ながらの寓話、妖怪、心が暖かくなるような話まで45篇が収録されている。多くは自然と密接に関わるなかで起きる話。現代人は自然から離れた生活をしているから不思議な出来事に出会わないのかもしれない。